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名古屋地方裁判所 昭和34年(ヨ)1053号 決定

申請人 梅村茂

被申請人 名古屋証券取引所

主文

被申請人が申請人に対して昭和三四年一二月一二日附でなした解雇の意思表示は本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

(注、無保証)

(裁判官 伊藤淳吉 小淵連 梅田晴亮)

【参考資料】

従業員たる仮の地位を定める仮処分申請事件

被申請人が申請人に対して昭和三十四年十二月十二日附で為した解職処分は申請人が被申請人に対して追つて提起する解雇無効の訴の本案判決確定に至る迄その効力を停止する訴訟費用は被申請人の負担とする

との判決を求める。

申請の理由

一、申請人は被申請人より昭和三十四年十二月十二日附にて被申請人の就業規則第十八条により解職する旨の通告を受けた。

二、之より曩申請人は昭和三十三年五月三十日附にて、申請人がその住所地より被申請人取引所へ通勤する為のバス代金千四百七十円を被申請人より騙取したという理由にて懲戒解雇処分を処けたのであるが、申請人は之を不服として被申請人を相手とり御庁に右懲戒解雇の意思表示の効力停止を求める仮処分申請を提起し、御庁昭和三十三年(ヨ)第五九四号事件として審理を受け、昭和三十四年九月二十八日御庁にて右解雇の意思表示の効力を仮に停止する旨の決定が為された。

被申請人は右決定のあつた後、昭和三十四年十二月二十三日前記申請人に対する懲戒解雇を取消した。

三、被申請人は右取消と同時に、即ち昭和三十四年十月二十三日附にて昭和三十三年五月三十日に遡及し、前記懲戒解雇の理由にて申請人に対して

1 資格剥奪 書記の身分を引下げ書記補とし市場部市場第一課勤務を命ずる

2 減給 本俸六二六〇円の処五〇〇円を減額し本俸五七六〇円とする

3 始末書を提出すること

という懲戒処分に附した。

右懲戒処分は労働基準法及び被申請人取引所の就業規則に違反しているので、申請人はやむなく右懲戒処分の意思表示の効力を仮に停止する仮処分を御庁に提起し、御庁昭和三十四年(ヨ)第九二〇号事件として審理を受けていたのであるが、被申請人は昭和三十四年十二月十一日附にて右懲戒処分を取消したのである。

四、右懲戒処分取消の翌日同年十二月十二日第一項記載の解雇の言渡を受けたのである。

申請人が被申請人より受けた処分、即ち懲戒解雇―取消―懲戒処分―取消―解雇という経緯を見れば、被申請人は申請人を解雇することのみに汲々として雇用主対従業員間の人間的接触を無視している。被申請人には申請人を解雇しなければならないという合理的な且つ正当な理由は存在しない。申請人としても右解雇に値する様な行為をした覚えがない。被申請人は申請人の前記懲戒解雇の取消をしても昭和三十四年十一月二十五日に、所謂バツク・ペイとして金十万円を支払つたのみで残額を支払つて呉れない、本件解雇の通知書にも右バツク・ペイの残金を支払うとは書かれていないのを見ても、如何に被申請人が得手勝手な行為をするかということの一端が窺える、その本性の現れである本件解雇は解雇権の濫用という外はないので、無効である。

五、申請人は被申請人取引所の給料で生活を営んでいるものであり、被申請人の許で働きたいのでやむなく本申請に及ぶのである。

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